PRODUCT >> 2014年 前期>> 雪影〜setuei〜
STORY

『父と母は死んだのだという。伝聞だ。亡骸をこの目で確かめたわけではない。雪降る深い山嶺に踏み込んで、春になっても帰って来なかった。だから死んだのだろうと、誰もがそう言った……』

平山修二は雪国で生まれた。
両親が死んで、天涯孤独になった修二は親戚に引き取られたが、周囲の視線は心温まるものではなかった。どこか疎まれながらも、都会での生活にも馴れていき、友人にも恵まれる。少しの我慢と平穏に充ちた日々へと次第に埋もれながら、修二は毎年冬の休みを利用して実家に帰る習慣だけは捨てることができなかった。

両親が死んだ日、幼い修二は、姉を名乗る少女と出会った。
"深雪" という名の少女とは、もちろんこれまでに面識ひとつない。両親はずっと一緒だったし、以前に子供を作ったとも聞かない。あの木訥な両親が……と思った。
そして、心のどこかでは、彼女が義姉などではないことを理解していた。自分が利用されているのかも知れないとさえ考えられた。が、構わない。そう、思った。
やはりどこかに寂しさはあったのだろう。今や無人となった実家は広く、寒く、虚しさは募るばかりだった。姉の存在で、失われた家族の温かみを少しでも取り戻せるのなら。
この時から、修二と義姉は共に暮らすようになった。修二は都会に、深雪はこの家に。だから、それは毎年帰省する一冬だけの間の、短く儚い姉弟関係。
慎ましく、ひそやかに、繰り返される一冬の―